オフィスの甘い罠
それどころかむしろ、
どんどん力が入らなく
なって……あたしの体は
今にもくずおれそうだ。



だけどそれに気づいた
柊弥の腕が、しっかりと
あたしの背中を抱く。



長い長いキスの後、
ようやく唇を離した柊弥は
言った。



「誕生日おめでとう、梓。

お前が生まれた日が
めでたくないなんてこと、
ないんだぜ。

だって少なくともオレは、
お前がこの世に生まれて
くれててよかったと思うからな」



「何……言って……」



“この世に生まれてくれて
よかった”なんて。



そんなこと、このあたしに
言わないでよ。



その言葉はきっと、
あたしには毒薬。



誰にも触れさせない
あたしの殻を――その
毒は鋭く甘く、内側から
壊していくんだ――。
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