オフィスの甘い罠
耳をくすぐる、穏やかな低い声。



……体をあわせたのは2回。



キスは――もう何回したのかな?

もはやよくわかんない。



だけど柊弥とのそういった
時間は、思い出しても
イヤな感じじゃない。



むしろ、体の奥深くに
再びフッと熱い火がともる
ような……そんな感覚さえある。



(大嫌いじゃなかったの……梓?

なんでアンタは、何度も
コイツに流されるのよ――?)



ガラにもなく自問自答
なんてしてみるけど、
答えは出なくて。



結局あたしは、あたしを
気遣う柊弥の言葉にも何も
答えず、ただ黙々と仕事を
進めた。



「ランチをとってから
外出ですよね?

車は13時に手配しときますので」



事務的な声で言うと柊弥は
小さくため息をついて、



「わかったよ。それでいい。

それじゃあ、また午後にな」
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