オフィスの甘い罠
空気が重くなってるのに
気づいたのか、社長に
サラッと話をまとめられて
しまった。



「いえ、お気になさらず」



(……ホントはそこが
聞きたいんだけどね)



「私ったら、どうしても
心配性が抜けないのよね。

いい歳して子離れしてない
って思うでしょう?」



そう言って、社長は
恥ずかしそうに笑う。



「そんなことはないですよ」



まさか『そーですね』とも
言えないから儀礼的に
返すと、社長は小さく
首を横に振って、



「いいえ。きっとそうなのよ。

柊弥には昔私のせいで沢山
苦労もかけたから、今は
とにかく不自由や辛い
思いをさせたくなくてね。

ついつい心配性になっちゃうの」



あたしはハッと息を飲んだ。



“苦労”って言葉で
思い出したんだ。


昨日柊弥から聞いた話――…。
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