オフィスの甘い罠
だけどあたしがそんな
事情まで知ってるとは
思ってない社長は、
あたしの態度には気づかずに、



「本当にごめんなさいね。

いくつになっても、親に
とっては子供は子供だから。

だけど柊弥に聞くと、
いつまでも子供扱いするな
って怒られちゃうでしょ。

だから、香川さんから
こっそり聞いたってわけ」



そう言うと、少女みたいに
ペロリと舌を出して笑う。



おどけたいたずらっ子
みたいだけど――でも
その表情はたしかに、
『母親』のものだった。



「――愛してらっしゃるん
ですね。
柊……副社長のこと」



気づくと、そんなセリフが
口をついて出てた。



“愛してる”なんてガラ
にもない言葉に、言って
から自分でちょっと驚いて
しまう。
< 198 / 288 >

この作品をシェア

pagetop