オフィスの甘い罠
だからその声も、あっと
いう間に柊弥の次の声に
飲み込まれて消えた。



「いいぜ。

そう思うなら逃げろよ。

本気で拒んで逃げるなら
追わない」



「やめて……!

あたしは―――!」




あるわけない。



他人に身を任せることで、
このつまらない世界が
変わるなんて。



あたしはそんなの
信じないし、求めない。





求めない、のに―――…。





(――――――!!)





吸いつくような激しい
キスに唇をふさがれた瞬間
――体に雷が落ちたかと
思うくらい、全身が痺れた。



(ダメ………こんなの。

こんなの、
あたしじゃない……!)



「……お前………

ホントの名前、なんて
いうんだ――?」



キスの合間の囁き声が、
さらにあたしを狂わせる。
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