オフィスの甘い罠
「そんな顔するなよ。

オレは会いたかったんだぜ。

こないだは、詫びの新しい
ドレスも受け取らずに
消えちまいやがって」



口調は残念そうに装ってる
けど、唇はニヤリとした
笑みを浮かべてる。



「……………」



……もうダメだ。



こんなに黙り込んじゃった
ら、今さら『なんのこと
ですか』なんて言ったって
通用するわけない。



あたしは覚悟を決めて、
低い声で言った。



「……最初から、気づいて
たの?」



「まぁな。

一度抱いた女の顔忘れる
ような男じゃないぜ、オレは」



涼しい顔で答える柊弥。



――なんてヤツ。


気づいてたくせに、
何食わぬ顔して初対面の
挨拶してたんだ、コイツは。



「サイテー。

まぁいいわ。
バレちゃったなら、こんな
会社サッサと辞めるまでよ」
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