彼の視線の先、彼女。
「まぁ、壱稀と仲良くなるのは不可能に近いけど」
舌をペロリと出して悪戯に笑う。
涙が引っ込んだ。
幸せだと思った。
こんなに私のことを考えてくれる人なんてきっと千尋だけ。
私の我が儘に付き合ってくれる千尋が、
私を馬鹿にしてくる千尋が、
私に頼って甘えたフリをする千尋がとても大事だ。
「さーて、久しぶりにゴリちゃんに会いに行こうかな」
「そうしよー」
郷田先生は何だかんだ言って千尋が大好きだ。
本当に寂しそうだもん、千尋がいないときの授業。
そう言ったらきっと千尋が気持ち悪がると思うから黙っておいた。
「あーあ、予鈴なっちゃった!行くよ千尋っ!」
「えぇー、瀬璃ちゃん歩こーよー」
屋上から出る前に見た空は2つの雲が仲良さ気に並んでた。
それが私と千尋ってことにしておこう。
そう思いドアを閉めた。
「瀬璃ーっ、置いてくなーっ!」
それはまだ夏の暑さが残る秋の出来事。