彼の視線の先、彼女。
「爽香、俺が持つって」
「いいよーっ、あたし持てるもん」
聞きたくない声は、どんどん近づいてきた。
今すぐに逃げ出したいと思う。
「壱稀、か」
ギュっと目を瞑る私に声を掛けたのは千尋。
その声はいつもより優しくて少し驚く。
「千尋・・・?」
仲良さ気な2人、けれど彼は気にすることなんて無いだろう。
私たちの存在に気づかず、そのまま通り過ぎるだろう。
そう思うと苦しい。
千尋の言葉なんて右から左に通りぬけるほど。