彼の視線の先、彼女。
「バカだなぁ」
そう言って笑った、彼。
本当は笑えないくらい苦しいはずなのに。
好きな人に好きな人がいるって死ぬほど苦しいはずなのに。
「あぁっ、壱稀。そろそろ行かないとヤバイんじゃない?」
「あー・・・、うん。行こっか」
ボーっとそんな事を考えていると2人の声がした。
少し長居した2人が先生にバレなかったことが奇跡に近い。
「じゃーねー」
千尋の独特な間延びした声。
何となく今は、それに救われた気がした。