彼の視線の先、彼女。
惑わすだけの彼
「瀬璃ぃーっ、今日はピンでとめたのが良いー」
千尋は変わらない。
何一つ、変わりはないのに。
昨日の出来事に私だけは動揺していた、戸惑っていた。
「はいはーい」
千尋の髪を触るとひんやりしていた。
こまめに染めてるくせに綺麗な髪、柔らかい感触。
こうやって千尋の髪に触れると今までの自分に戻れた気がした。
「どうしよっかなぁ。俺」
「へ?」
もう作業が終わりかけたときポツリと千尋は言った。
本気で悩んでいるようには見えなくて、実際どっちか分からない顔。
どうしてもこの人の本当の顔は、私には見えない。