彼の視線の先、彼女。
「ごめんな」
小さく笑って私に背を向けた。
ゆっくりと千尋は歩き始める。
「・・・っ待」
もう何も見えない。
傷つけたのは紛れも無い私だった。
最後に言おうとした”待って”の一言は千尋の閉めたドアの音でかき消される。
追いかける事も出来なかった。
追いかける権利が私には無かった。
「・・・っ千尋」
聞こえない声で、届かない千尋に向けてそう言った。
最後にそう呼んだのは日差しの強いある夏のこと。
それを境に千尋は、
冗談を言ってくれることは無くなった。