コスモス


……………

どれだけ時間がたっただろう。

恐れを覚えた雲は、夜の闇に見えなくなっていた。

あれから何度か看護師さんが出入りしていたが、明日可の状態は未だ何もわからない。

時間だけが、ただ刻々と過ぎていく。


「…一度」

ふいに声がしたベンチに目線を移す。

「一度、学校で会ったね。雨の日に…」

口を開いているのは、明日可のお兄さんだった。

「はい…」

僕は呟く。
しばらく何も話してなかったから、喉の奥が乾いていた。

「あの日、明日可妙に嬉しそうだった」

膝の上で握った両手を見つめながら、彼は続けた。

「…明日可の病気が見つかったのは、あいつが中学2年の時だった。それまではほんとやんちゃで…毎日グラウンドを駆け回ってた…」

口元を抑えた明日可のおばさんは、立ち上がってその場を立ち去る。
おじさんが、それに続いた。

「…あいつは今まで頑張った」

膝を足につけて、頭を抱え込む。


「…もう、楽にしてやりたい…」


…楽に。


胃が、熱くなるのがわかった。
頭に熱がこもる。



「…なんで、そんなこと言うんすか」



視線が僕に集まった。




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