コスモス
………………
「きゃーっ!もっと飛ばしてっ!」
「うわっ!動くなよっ!」
春の陽気な風が、僕等の前から後ろへと流れていった。
彼女の細い腕と時折髪をかきあげる仕草が、僕の心拍数を上げていく。
…何でこんな状況になったんだろう。
僕は、あの憧れの彼女を後ろに乗せて、自転車を走らせていた。
傘を忘れたお詫びに、家まで二人乗りで送って欲しいと言われたのだ。
ニコリと笑った彼女に、僕がどう返事をしたかは覚えていない。
僕の得意技は自惚れで、自信なんかこれっぽっちもないくせに、よく自意識過剰な想像をしてしまうから。
だから。
期待、しちゃうじゃんか。
「あっ、そこ右ね右!」
「えっここ!?もっと早く言ってよ!」
「あはっ、ごめんごめん」
何だか夢心地だった。
昨日まで話しかけることすらできなかった彼女と、今二人乗りをしている。
こんな普通の会話ができてる。
寝不足なんてどっかへ置いてきてしまったみたいに、心も体も軽かった。
俺、何か良い事したかな?