コスモス


「ここっ、止まって止まって!」

唐突な彼女の注文に、僕は急いでブレーキを踏んだ。

体が前のめりになる。


「え?ここ?」


…そこは、一面田んぼだった。

右も左も、田んぼ田んぼ田んぼ。

彼女はひょこっと、自転車から降りた。
僕も続いて降りて、自転車を止める。

「田んぼじゃん」
「田んぼじゃないよぉ。知らないの?ここ、コスモス畑だよ」
「コスモス畑?」

僕には田んぼにしか見えないこの緑の広場は、彼女に言わせるとコスモス畑らしい。
半信半疑な僕に、彼女は続けた。

「今は雑草が沢山生えてて荒れ地みたいだけど、秋になると凄い綺麗なんだから」
「へぇ…ここがねぇ…」
「あ、あんま信じてないでしょ」

僕の気の抜けた返事が気に入らなかったのか、彼女は少しふくれっ面をしてみせた。

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