コスモス

「いや、そんな事ないっすよ!」

心の中を見透かされた様で、僕は焦って顔の前で大げさに手を降る。
それを見て、彼女の顔が緩んだ。

「あはっ、傘貸した時と同じ動作だしっ」

彼女もいつもと同じように、口元に手をあてて笑った。
どうやら彼女の癖らしい。

一通り笑った後、一息ついてから彼女は言った。

「じゃ、あたし帰るね」
「えっ、だって家まで…」

いつも唐突な彼女の言葉。
僕は例外なく驚かされる。

そんな僕に彼女は、くるりと丸い目を向けて当然の様に言った。

「だって、家もうすぐそこなんだもん。あそこに見える団地」

彼女が指差す先は、コスモス畑を見下ろす形になる小高い丘の上の団地。

確かに、もうすぐそこだった。


「送ってくれてありがとね。じゃあ、また」
「あ、あのっ…」


帰ろうとした彼女が足を止めた。
思わず口をついてしまった、一言。


何引き留めてんだ、俺。


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