コスモス
……………
自転車を漕げば漕ぐほど、冷たい風が僕等を襲う。
「寒くない?」と僕が声をかけると、「大丈夫!」という声が返ってくる。
確かに寒いはずなのに、背中には暖かい温もりを感じていた。
明日可の温もりが、そこにはあった。
「シュウ」
明日可の声が背中に響く。
「…大好きよ」
それはそっと、背中を伝って僕の心に響いた。
「な…っ!」
突然の一言に、僕は思わずバランスを崩す。
あははと、明日可が笑った。
「バレンタインだから、特別」
勝ち誇った様な明日可の顔と、やられたという様な僕の顔。
照れ隠しのために、僕は自転車のスピードを上げた。
「あははっ速いってー!」
明日可が笑う。
僕も笑う。
冬のコスモス畑に、僕等の笑い声が響き渡った。
…あの時感じた温もりは、今どこにあるのだろう。
今の僕はもう、あんなスピードで冬の自転車には乗れない。
背中が寒くて、
もう乗れない。