コスモス
第十三章【別れ、そして旅立ち】
……………
「テスト返すぞー!席つけー」
非難の声が教室中に響き渡る。
いつの間にか季節は夏へと変わり、せわしなく蝉が鳴き続けていた。
声は聞こえるのに姿を見せない蝉が、僕はあまり好きじゃない。
「須川ー!」
名前を呼ばれて、僕は席を立った。
「お前どうしたんだ?こんな点数初めてだな。凄いじゃないか」
数学の森先生は、驚いた顔でテストを返す。
「髪も黒く戻したし、ようやく受験を意識し始めたか」
ははっと笑いながら、僕の肩に手を乗せる。
軽く会釈をして、僕は席についた。
…次々と名前が呼ばれる教室の中、僕は視線を窓へと移す。
相変わらずうるさい蝉の声。
目を凝らしても、どこにいるのかわからない。
まるで、僕の様だ。
でも…。
「お、なかなかいいじゃん」
カズが僕のテストを見ながら呟いた。
…もう僕は、見えないからって諦めたりしない。
いくら蝉がうるさくても、耳は塞がない。
目の前の事から一つずつ、探していく。
いつかカズが言っていた、『とりあえず』でもいいから。