コスモス
第五章【雨上がりの空】
……………
その日もいつもの様に、彼女はげた箱の柱にもたれかかっていた。
始業式の時みた横顔と、同じ横顔。
雨の香りの充満する廊下に、それは変わらず清く綺麗で。
あの日は知らなかった彼女のことを、僕はもう沢山知っている。
彼女の笑顔も、膨れっ面も、笑い声も、もう憧れなんかじゃない。
でも一番知らなきゃいけないことは、まだ知らないままだった。
…僕は、黙って彼女の前に立った。
俯いていた顔が、僕の方を向く。
その黒い瞳に吸い込まれそうでそらしていた目も、今はちゃんと見つめ返すことができる。
僕等は出会った日の僕等じゃなくなった。
じゃあ、僕等は一体何なんだろう。
雨が降れば終わってしまう、タイムリミットのある関係なのだろうか。
後にはなにも、残せないのだろうか。
「…降っちゃったね、雨」
僕が手に持つ水色の傘を見ながら、彼女は呟いた。
落とした視線は、どこか寂しそうだった。
「…家まで、送るよ」
…結局僕には、それしか言えなかった。