コスモス
「んーっ!気持ちいいー!!」
二階の部屋は和室になっていて、長い間使われていない様な箪笥や鏡台が置かれていた。
軋む窓を全開にして、かすかに香る磯の匂いを吸い込む。
「いいとこでしょ、ここ」
くるりと振り向いた秋桜は、満面の笑顔で言った。
「ああ。なんか…落ち着くな」
来る途中、一軒だけあったコンビニで買った荷物をドサッと置いて答えた。
「昔よく来てたんだ。お母さんと弟と。母方の田舎だから、ここ」
窓の縁に腰掛けて懐かしそうに目を細める。
聞いていいものかどうか迷ったが、僕は口を開いた。
「…親父さんは?」
秋桜はチラと僕を見たが、すぐに視線を外に戻して答えた。
「いないよ。弟が生まれてすぐ、離婚したから」
あまりにあっさりとした口調に僕は戸惑ったが、僕が口を開く前にドアがガラッと開いた。
「麦茶入ったから飲みんさい」
入り口に立つ秋桜のお祖母さんの手には、お盆に乗せられた二つのグラスが光っていた。
お祖母さんが動くと、中の氷がカランと音を立てて揺れる。