コスモス

「いい大人がセミ取りなんてね」
「確かに。いつぶりだろうな、虫取りしたのなんか」

ははっと笑いながら僕たちは話していた。

僕は廊下の壁にもたれかかり、秋桜は柱にもたれかかる。
夏の蒸し暑さから解放された夜の空気には、かすかな虫の音が響いていた。


「…今日はありがとう。付き合ってくれて」

ふいに秋桜が口を開く。

「ここ…やっぱりまだ、1人で来る勇気、なかったからさ」
「え?」

秋桜の言葉の意味を理解しかねた僕は思わず聞き返した。

「…うち、離婚して父親いないって言ったでしょ?それからは、あたしと夏樹…弟なんだけどね、2人をお母さんが女手一つで育ててくれた」

突然話し始めた秋桜に、僕は口をつむぐ。

「お母さんはそれこそ朝から夜まで働き通しで…あたしは少しでも助けになればって、家事や年の離れた夏樹の世話をしてたの。お母さんも夏樹も大好きだったから、苦痛だなんて思わなかった」

食べ終えたスイカを縁側から地面に置く。甘い蜜に誘われて小さな虫が寄ってきた。

それを見つめながら、秋桜は話を続ける。

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