コスモス

「中学2年の時…初めて彼氏ができたの。ずっと好きだった先輩で…すごく嬉しかった。でも…」

秋桜の声が一瞬沈む。

「放課後は夏樹の保育園の送り迎え、休みの日も家事や夏樹の世話で…全然デートとかできなかった。それがだんだんストレスになってきて…今まで思わなかったのに、『何であたしばっかり』って思うようになっちゃって…」

スイカに止まった虫が、チッと飛び立つ。

「その日、初めて夏樹の迎えをサボった。どうしても彼氏といたくて…。携帯なんか持ってない時代だからさ、連絡もしないでずっと遊んでた。1日くらい、許されるって思ってた。でも…」

黙ったまま、話の続きを待つ。むやみに口を開いてはいけない気がしたからだ。











「そのせいで、お母さんが死んだ」

















…呼吸が一瞬、止まった。




















「…いつまでたっても迎えが来なかったから、保育園がお母さんに連絡したの。徹夜続きで疲れてたのに、その足でお母さんは迎えに行った。その途中で、運転を過って…そのまま」


ふいに虫の音が止んだ。

辺りは静寂に包まれる。





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