コスモス

「おばあちゃんだけじゃ2人も養えなかったから、あたし達はお金持ちの親戚の家に引き取られた。でも、そこに居場所なんてなかった。あたしのせいで、ささやかな家族の幸せも失った。そんな自分なんて大嫌いだった。その頃から…リストカットを始めた」


カーディガンの袖を引っ張る秋桜。僕はあえて、それに気づかないふりをした。


「落ちるところまで落ちようと思った。悪い友達と付き合って、殺人以外のことなら何でもやった。誰かあたしを罰してくれればいいって、そればっかり考えてた。でも…そうすると、夏樹に悪影響だってこともわかってた。あたしなんかのせいで、大切な母親を失ったんだから…せめて夏樹にだけは、幸せになって欲しかった」

秋桜の語尾が揺れる。

「だから、あたしは大学に行く事にしたの。あたしなんかが社会に出ていけるなんて思ってなかったし、叔母さん達も…家の体裁があるから、それは薦めなかった。お金ならいくらでも出すから、県外の大学に行ってくれって頼まれた。内申が悪かったから、必死に勉強した。…家を出て、夏樹のお荷物にならないためなら、そんなこと全然平気だった」



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