コスモス
サッと風が通り過ぎ、どこかの風鈴がチリンと鳴った。
「ずっと…大学を出ることが怖かった。あたしなんかが社会に出ていけるわけないって、ずっと思ってた。だって…あたしはお母さんを殺した。あたしのせいでお母さんは死んだ。あたしのせいで…」
「もういいよ」
自分を抱きかかえる様にして話す秋桜を、僕は止めた。
「もう、いいよ…」
秋桜の手を握る。
その手に滴が落ちる。
ゆっくりと、秋桜は口を開いた。
「…ずっと…ここに来るのが怖かった。お母さんが死んで、あたしは一度もここに…お母さんのお墓に、来れなかった。あたしは…お母さんに、合わせる顔がない。きっと、お母さんはあたしを…許してはくれないって…」
…風が止んだ。
辺りに静寂が戻ってきた。
僕は、ゆっくりと話し始めた。
「…俺も…落ちるところまで落ちたことが、ある。秋桜みたいに…自傷行為に走ったこともある」
腕の火傷の跡を、そっと撫でる。
「…明日可は…心臓の病気だったんだ」