コスモス

うつむいていた秋桜の顔が上がった。
僕は話を続ける。

「助かる手は移植手術しかないって言われた時、僕等は一度…生きることを諦めたんだ。2人で死のうって…そう思った」


瞼を閉じれば、あの日の映像がくっきりと浮かぶ。


「でも…僕等は生きる道を選んだ。あいつは…明日可は、俺に『生きて』って言ったんだ。自分のために、死ぬ道なんて選ばないで欲しいって…。約束したんだ。これからは、何があっても生きようって」


明日可の声が脳裏に浮かぶ。
『生きて』と、僕に呼びかける。


「…だから、俺は今まで生きてこれた。明日可が移植のためにアメリカに行っても、連絡が取れなくなっても…どんなに辛くても、その約束があったから生きてこれた。生きるための恋だって言っても…過言じゃないくらい」


秋桜はだまったままだった。だまったまま、僕の手を握り締めていた。


「でも…どんなに辛くても、どんなに苦しくても…あいつに、明日可に会わなきゃよかったとは…絶対思えねぇんだ。明日可を好きにならなきゃよかったとは、やっぱ思えねぇんだ…」


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