コスモス
目の前に記憶の中のコスモスが広がった。
多分、二つの意味で。
「…コスモスの、和名だろ?」
意外そうな秋桜の顔がこっちを向いた。
「…何?」
「や…男の子でも、知ってるんだなーって。意外だった」
「それくらい知ってるって」
ははっと笑いながら言った。
「じゃあ…コスモスの花言葉って知ってる?」
…花言葉?
意地悪そうな笑顔がそこにはあった。
何も言えない僕に向かって、勝ち誇った顔をする秋桜。
「やっぱそこまでは知らないか」
くるりと前を向き、駅に向かって歩き出した。
「乙女の純愛」
人の少ない駅のホールに響く秋桜の声。
「あたしに一番、似合わないでしょ」
駅の時刻表を見ながら言った。
「だから前は、この名前が嫌いだったんだ。でも…」
電車は、もうすぐ来るようだ。
「今は、そうでもないかな」
振り向いた秋桜の笑顔は、嘘の笑顔じゃなかった。
それが少し、僕を安心させた。
「…そっか」