コスモス
「や…知らないけど…それがどうかした?」
「いや、知らないならいいんだ。ちょっと思い出しただけだから」
そう言って時計を見ると、もう電車の発車時刻だった。
「じゃあ、俺行くわ」
「うん。気をつけてね」
改札の前で秋桜が手を振る。
僕は切符を改札に通した。
電車に乗り込む直前、ふと僕は叫んだ。
「秋桜!」
改札の向こうで秋桜が振り返る。
「…また飲もうな」
2人の目が合う。
ゆっくりと、秋桜が微笑んだ。
「…うん!飲もうねっ!」
笛の音が発車を告げる。
ゆっくりと電車が動き出す。
…僕たちもまた、それぞれの道を歩き出す。
…「…行っちゃった」
改札の向こうの電車を見送りながら、秋桜は呟いた。
きびすを返し、駅の構内を抜ける。
外は思わず目を細めてしまうほどの青空だった。
「…行こう」
カーディガンを脱ぎ、蜃気楼の中に足を踏み入れる。
秋桜の後ろを、トンボがブンッと通り過ぎた。