コスモス


「今日ね、」

不意に明日可が口を開いた。

「カズ君に聞いちゃった」
「何を?」

明日可が笑ったまま僕の方を向いた。
2人の目がかち合う。


「シュウが言った、『約束』のこと」


明日可に見つめられながら、顔が紅潮するのがわかった。
思わず口をパクパクさせる。


「あたしのこと、名前で呼ぶなって言ったんだって?」


クスクス笑う明日可の横で、僕は頭を抱えた。

…カズの野郎。


「ね」

明日可が僕の顔をのぞき込む。
シャンプーの香りが近くなる。


「今日、やきもちやいた?」


頭をかかえたまま、僕は明日可をチラッとみた。
いたずらっ子の様に笑う明日可。

「…言わすなよ」
「聞きたいの」

明日可がこっちに体を向ける。
仕方なく、僕も元の体制に戻った。

赤くなった頬を、夜風が少し冷ます。


「…やいたよ。当たり前じゃん」

前を向いたまま、僕は呟いた。


風に乗って、明日可の小さな笑い声が届いた。


「笑うなよ」

僕も明日可のほうに体を向ける。
二人、向き合う形になった。

「だって」

ふいに明日可が顔を上げる。

とても近くで、二人の目が合った。



「嬉しかったんだもん」










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