桜雨
驚いて自分の腕を上げてみる。
その瞬間、ふぁさ、と布が落ちるずれる音がした。
「・・・え?」
おかしい。
校庭に来ていた時の自分の服は、
お気に入りの白いワンピースに、黒いジャケットを羽織ってきた。
それなのに。
彼女の腕には、鮮やかな花がいくつも描かれた綺麗な布が纏わられていた。
「お嬢様、起き上がられますか」
咄嗟に誰かが彼女の背中を強く押してくれた。
何とか起き上がり、辺りを見渡す。
「・・・あ・・・れ?」
彼女が座り込む土は、一面緑色の芝生で覆われている。
そして、遠くには整然と手入れされた花壇が見える。
その近くには、雑誌や本で見た事しかないような、大きくて豪勢な噴水がある。
つまり、・・・ここは、西洋式の庭園、ということ。
「わた・・・し」
「お嬢様、安静にしてくださいませ、今使いの者たちが、お嬢様をお運びするために、
人を呼んでおりますので」
状況がつかめない。
これは、一体。
そして、さっきからなぜ、お嬢様と呼ばれているのか、彼女には不思議だった。
「それに、山内家専属の医者を直ちにお呼びしておりますから、ご安心くださいね」
にっこりと、その人はほほ笑んでくれた。
その瞬間、彼女は、その人が誰に似ているかを思い出す。
(あ、あの子だ・・・)
以前、幼馴染の彼と一緒に歩いていた女の子にそっくりだ。
優しそうで素直そうな笑顔が、見かけた笑顔そのものだった。
なぜ、ここに。
そう言いかけたが、上手く力が入ってこない。
いつから、こんなにも非力になったのか。
自分ですらも分からないほどだった。
「あ、参りました。今お部屋にお運びいたしますね」
彼女はいつの間にか大きな布の上に載せられ、
何人かの男たちにどこかへと運ばれていった。