桜雨
「えぇ!?」


大声と同時に、彼女はベッドから起き上がった。


しかし、よほどこの体は筋肉を使わないのか、


起き上がる途中で、体が重力によってベッドに引き戻されてしまった。


「・・・そうか、私・・・」


夢と言って良いのかわからない。


ただ、夢らしき世界で、今の自分がどういう人間なのかを把握した。


そういえば、と彼女は記憶を巡らす。


山内家という名前は聞いたことがある。


日本史の授業で、日本の財閥を学んだことがある。


その中で、山内財閥という名前があった。


未だに、その名残はあって、


銀行や商社にも、「山内」という名前が使われている所がある。


恐らく、山内財閥が、山内グループとして生き残り、


それが現代でも色々な会社として残っているということだろう。


(・・・ということは、・・・私、いつの時代に居るのだろう)


恐らく、大分昔に居るということだけは確かだった。








「お嬢様?大丈夫でございますか?大声が聞こえましたが」


先ほど、庭園で自分を抱き起こしてくれた若い女中が、


心配そうな顔つきで部屋のドアを開け、覗き込んでいる。


「え、えぇ・・・」


彼女は少しの眩暈を感じながら、女中に顔を向けた。


この女中の名前は・・・



「ハナ」


どこか遠くから誰かが囁いてくれたかのように、自然とその名前が聞こえた。


彼女は、ためしにその名を呼んでみる。


「ハナ」


「はい、いかがいたしましたか」


即座に、ドアの隙間に居た女中が部屋に入ってきた。


名前は、正しかったらしい。


「今日って、何年の何月何日ですか?」


いつの間にか、言葉が、普段あまり使わない敬語になっていた。

< 21 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop