桜雨
「お姉さま。・・・嫌だったら嫁がなくても良いのですよ?
幸花が一生面倒を見ますから」
幸花がベッドに寄ってきて、その上に座る。
「何を仰りますか。こんな素晴らしいお嫁ぎ先に行かれるお姉さまを、
幸花様もお見習いくださいませ」
ハナが、ここぞとばかりに幸花に説教を始めた。
「嫌よ。私、まだ18歳だし」
「『もう』18歳の間違いでございます」
幸花は、やたらと結婚することを嫌がっていた。
ついこの前、生れてはじめての見合いで、大学の助教授だったそうだが、
散々相手をコケにして帰って来たらしいというのは、女中たちの噂で、
幸枝の耳に入ってきていた。
幸枝からすれば、妹がうらやましかった。
元気で、自由奔放で。
自分にはないものを全て持っているような気がした。
亡くなった母を恨むわけではない。
ただ、もう少し丈夫に産んでいてくれれば、と、思うことはあった。
「私も、お姉さまと同じくらいで結婚したいなぁ」
「幸花様!」
ハナが慌てて幸花に詰め寄る。
確かに、今の言葉に幸枝は少し引っかかるものを感じていた。
好きで、21歳まで結婚しなかったわけではない。
こんな病弱な体では、結婚しようにも、結婚する相手がいないのだ。
世継ぎの産めない体で、嫁に欲しいなど、よっぽどの物好きか、
山内の財産目当ての人間に過ぎない。
それなのに、何故か、今回藤條家の当主と結婚することになったのだ。