桜雨
100年前、山内家にて
幸花のわがままとハナの小言を聞き終えて、
ようやく一人になった。
改めて部屋を見渡すと、そこがいかに広く、豪勢な部屋であるかが分かる。
大きなシャンデリアに、金の淵で飾られて窓、美しい風景がや、
どこかの貴婦人の肖像かなどが飾られている。
「・・・100年前の幸枝は、凄い所に住んでいたんだね」
独り言のはずだが、会話をするかのように、言葉を零す。
実際、彼女は一人でいる気がしなかった。
確かに、彼女は彼女しか存在しない。
だけど、彼女は、自分自身の中に、
もう一人、自分と非常に似ている人格がある、と感じていた。
意識はすべて、現代の世界から持ち込んできたものだけど、
この世界の記憶は全て、そのもう一人の人格が教えてくれている。
「・・・ふぅ」
どっと疲れが湧き上がってくる。
慣れない世界で、慣れない暮らしが、今始まろうとしていた。
そして。
「結婚するのかぁ」
もう一人の人格に、幸枝の年齢を教えてくれるよう尋ねると、
21歳である、という記憶がよみがえってきた。
この時代で、
良家のお嬢様が20歳を過ぎて結婚の約束すら決まっていないのは、遅いのだそう。
幸枝は、体が弱く、いくら山内の名前があっても、
貰い手がなかなか名乗り出なかった。
半ば諦めていた時、ある1つの家が、是非に、と名乗りを上げてきたという。
それが、藤條家だった。