桜雨
「ねぇ、タマ」
幸花の部屋でお茶を用意するタマに、幸花が怒った口ぶりで質問を投げる。
「なんでお姉さまは突然結婚することになったの?」
タマは、その手を休めることなく、幸花の質問に答える。
「突然も何も。幸枝様のご結婚相手を探すのは、
ここ5年ほどなさっていたではありませんか」
「そうだけど」
目じりのしわを深くして、タマが笑う。
「次はとうとう幸花様でございますねぇ」
タマが陶磁器でできたティーカップを、ベッドに座る幸花に差し出した。
「ふん。私、絶対結婚しないから」
それを手にして、ふぅふぅと息を吐きながら、彼女はそっぽを向いた。
「そんなにお家にいらっしゃりたいのでございますか?」
「・・・別に。そういうわけじゃないけど」
「お嬢様、今年で19歳になられるのですから、早々とご結婚されて、
子をお産みになられてくださいませ。お父様も肩の荷が下りることでしょう」
「・・・あーあ」
ずず、と熱い紅茶をすすりながら、幸花はため息をついた。
「結婚なんかしたくない!幸お姉さまみたいな生活なんか、送りたくない!」