桜雨
「今は大分落ち着いておられます」
「そう」
楽観視はできない、それは共通認識である。
「幸枝お嬢様は、・・・そもそも生きることを諦めていらっしゃる」
タマのその言葉に、内心ハナはどきっとした。
核心をつくその言葉を、実際に口にするのは、ハナには躊躇われたからだった。
「今度のご結婚が、幸枝お嬢様の希望になればよろしいのですが」
生きる喜びも無い、
ただ死だけを見つめていかなければならない、そう生きてこなければならなかった、
その苦しみを思えば、
幸枝が希望を抱けないのも、納得は行く。
ただ、それではダメなのだ。
「藤條家のご当主は、人格者であると、噂ではありますが、聞いております。
そのような方の伴侶になることで、幸枝お嬢様も少しお変わりになられれば・・・」
「・・・でも、」
ハナは、タマの言葉にこたえようとしたが、
その後の言葉を口にすることはできなかった。
ハナにだって、それぐらいは分かる。
この結婚は、政略結婚に過ぎない、と。
言い方は悪いかもしれないが、
家柄が極めて良いにもかかわらず、嫁ぎ先がない娘を貰ってほしい家と、
その家柄と富が欲しく、あまり血縁を重視しない家、
利害が一致しているからこそ、結婚するのだ。
そんな結婚に、幸せが訪れるのだろうか。
「・・・いえ、私もそう望んでおります」
ハナは、ただそう言うだけが精一杯であった。