桜雨


「良い若者だったよ」


突然、ぽつり、と彼が呟きだす。


「はい?」


「藤條氏のことだよ。彼はとても温厚らしく、幸枝にふさわしいと思う。


幸花にも、ああいう人間が見つかれば最高なのだが」


「さようでございますね」


タマは、そう答えるしかなかった。


これも、財閥に生まれた人間の定め。


与えられた富、何不自由のない暮らし、


誰もが得られないものを得る代わりに、


逃れられない義務もある。


それは、血筋を、そして家の名前残す、ということ。


幸枝も、その点では、たとえ病弱でも変わりは無かった。




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