桜雨
このままでは、前に進めない。
そう思って、彼女は、ありったけの勇気を振り絞って、
この桜の木の下にいた。
瞳から零れおちない涙の代わりのように、
桜の花びらは、ひらひらと彼女の頭上を舞い落ちてくる。
「・・・」
幻のような儚い美しさを前に、彼女は長い長い息を吐いた。
そのため息は、行き場も無く、ただその場所をさまよう。
桜の花びらに混じることもできず、
ただ、その場所で立ち尽くす彼女の足元に、音も無く沈んでいく。
「今更、気がつくなんて・・・」
それは、あまりに遅すぎた。
時は、待ってくれはしない。
早足で、その場を通り過ぎていく。
繋ぎとめる勇気も無い彼女にできることは、この気持ちを捨てるだけだった。
だからこそ、この場所に居た。
せめて、「この場所」で、想いを断ち切りたかった。