桜雨
たった数分窓のそばで立っているだけでも、体が疲れてくる。
彼女は再び、ベッドの中へと戻る。
春が来て。
夏が来て。
秋が来て。
冬が来て。
窓の外では、風景さえ変わるというのに、
彼女は、毎日毎日、部屋の中の大きなベッドに一人横たわるだけだった。
動くことも、部屋の中でしか許されていない。
外に出ることなど、
ほとんどなかった。
いや、外に出ることが許されていなかったのだ。
それでも、
小さい頃から、幸花が外で遊んだり、使用人が庭を手入れする姿を見ていると、
外の世界に出たい、外の世界を知りたい、という望みが芽生えた。
しかし、それを口にすることさえはばかられた。
だけど、それでも外に出たい。
せめて、大好きな桜の木をこの目で見ておきたい。
その願いが積りに積って、とうとう彼女は、昨日、部屋を抜け出した。
しかし、案の定、体力は持ってはくれなかった。
やはり、自分は外の世界に出ることはできない、
分かってはいたはずなのに、
その事実を突き付けられると、絶望の波だけが押し寄せてくる。
「私は、・・・ずっとこのままなのかしら・・・」
外の世界に出たい、その希望すら失った今、何のために生きて行けば良いのか、
彼女にはわからなかった。
彼女に与えられた、短い命。
あとどれだけの時間が残されているのだろう。
たとえ時間が短くても、
その時間を生きるための希望ぐらい、持っていたかった。
それなのに、それすら、失ってしまった。
彼女は長いまつげが生える目蓋をそっと閉じ、両手を組んで横たわった。