桜雨
「さて、・・・そろそろ『私の妻』に会う準備でもするか」
藤條朔は徐に立ち上がろうとする仕草を見せた。
内山は、さっと彼の座っている椅子を両手で持ち、
軽く後ろへと下げる。
すぐに藤條は立ち上がり、赤いじゅうたんが敷かれた床を、
踏みしめるように歩きだした。
「・・・それと」
入口の近くで立ち止まり、内山の方を振り向いた。
「今夜は、遊郭にでも行くかな」
「かしこまりました」
内山が、腰を折ってお辞儀をする。
藤條はそれを見ないまま、ドアノブに手をかける。
ぎぃ、と開けられたドアが、ぱたん、と閉められた。
内山は無表情のまま、
その場に立ち続けていた。