桜雨


内山は、ふと自分の頭の上を見上げた。


非常に大きなシャンデリアが飾られている。


しかし、このような大きなシャンデリアは、居間にしか存在しない。


藤條家の敷地も、広くはあるものの、


その手入れは、決して万全とはいえない。


藤條家は代々医師家系ではあるものの、所詮「市民」なのである。


もちろん、一般市民に比べれば、その力は大きいものであるのに間違いないが、


貴族であったり、財閥であったりが持つ力に比べれば、


そこまでのものがある訳ではなかった。


だからこそ、なのであろう。


藤條朔が、山内家の二女と結婚するのは。


彼が藤條の人間であると同時に「山内の人間」となることで、


彼の持つ力は、今までのものとは比べ物にならないほど、強いものとなる。


内山から見た藤條朔は、医者ではあるものの、少々野心家のようにも見えていた。


もしかすれば、将来は自分が頂点と立つ何かを築き上げたいと願っているかもしれない。


例えば大学とか、


もしかしたら病院とか。


逆に言えば、それ以外に彼が結婚する理由がなかった。


あくまで噂ではあるが、山内家の二女は非常に病弱で、


世継など残せる体ではないらしい。


となれば、恐らく彼は一旦山内の人間となり、


妻である彼女が死ぬのを待った後、


他の女性に子供を産ませるなどして、その子を養子にし、


山内の力を借りつつ、より自分の勢力を拡大させていくのではないだろうか。


(・・・非常に打算的なお人だ・・・)


自分の仕える主人だから、何も言わない。


内山は、表情一つか変えず、


その部屋にある暖炉の火を消し、


中心に置かれたテーブルの上を綺麗に片づけ始めた。


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