桜雨
窓の外はまだ暗い。


男は、上半身を布団から起こし、未だ明けない夜の空を眺めようとしていた。


「旦那様?」


同じ布団で隣に寝ている千代恵も、目を覚まして起き上がってきた。


「千代恵、起こしてしまったかな」


「いえ。そんなことはございません」


結っていた髪がほどかれ、少し汗ばんでいる。


その髪を少しなでて、彼が優しくほほ笑みかけた。


「もう少し寝ようか」


彼は布団にもぐりこむと、互いに何も纏っていない体を寄せ合いながら見つめ合う。


「千代恵は、旦那様の寝顔が好きでございます」


少し寝ぼけたままの声は、いつもの千代恵の甘い声とはまた違って、


男の心をくすぐった。


「・・・そうか」


彼は彼女の目蓋の上に唇を落とすと、


少しはにかんで、また目蓋を閉じるのだった。








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