いけない恋
倒れると同時に雄一兄ちゃんが母親を庇い、襖を支えてくれた。

「大丈夫ですか?」

 母親は驚いて目を丸くしていた。
もっと驚いたのは俺だ。
なんて俊敏な動きだろう。
運動神経は本当に良いようだ。

「大丈夫かい?」

 端正な顔立ちとまではいかないが、そこそこ男前な顔を雄一兄ちゃんはしていた。

「あ、えっと、はぁ、まぁ……」

「陽太! アンタなんてことを……」


「まぁまぁ、お母さん」

 雄一兄ちゃんは俺を軽々と抱え、ホコリを払ってくれた。

「君が陽太くん?」


「そ、そうだけど……」


「そうやって襖に張り付いていたってことは、全部聞いてたよね?」

 ドキッとした。
でも、嘘をついても仕方が無い。

「……うん」

「じゃあ話は早いな。今日からよろしくな、陽太くん」

「……。」

 なんとなく気に入らなかった。
 だから、手は握らなかった。
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