いけない恋
光田さんは料理もできるようで、母親が夕食の準備をしているときもずっと隣にいて手伝いをしているようだった。俺は明日の宿題があるのでテーブル(今までちゃぶ台だったから慣れない……)でずっと鉛筆を握っていた。よりによって苦手な算数。もうすぐ中学に上がると数学とか言うのになるらしい。ウザい。「おっ? 宿題?」 風呂を終えた雄一兄ちゃんが上がってきた。「まぁ、そんなとこ」「どれどれ。おっ! 算数か」(なんなんだよ、なれなれしい……) 俺は初対面の人になれなれしくされるのが大嫌いだった。異性ならまだしも、同性だと余計に。だからますますかわいくない態度をとってしまう。俺はわざとノートを雄一兄ちゃんに見えない角度に置いた。 しばらくすると、雄一兄ちゃんは無言で立ち上がって台所のほうへ行った。ちょっと悪い気もしたけど、そういう時期ってわかってくれたら、それでいい。反抗期となれなれしいのが嫌いという性格が交わって態度の悪さが目に付くのも当然だった。そういう顔をしているのが自分でもわかった。「ひぇっ!」 突然、首筋に冷たいものが当たって俺は小さい悲鳴を上げた。後ろを振り向くと、雄一兄ちゃんがオレンジジュースの缶を二本持ってニコニコしながら座っていた。「勉強ばっかやってると、息詰まるだろ? せっかく今日から兄弟になるんだし、乾杯しようぜ」「……。」 相変わらずふてくされた顔をしていると、雄一兄ちゃんは強制的に俺に缶を渡し、自分のオレンジュースの缶を開けた。「ほらほら、陽太くんも開けた開けた!」 プシュッ!といい音がした。オレンジの匂いがする。「それじゃ、乾杯!」「乾杯」 俺は小さく声を出した。チョビッとジュースを口に含んでいる間に、雄一兄ちゃんはゴクゴクと勢いよくジュースを一瞬で飲み干し、「グェップ!」とゲップを吐いた。「……プッ」 俺が笑うと、雄一兄ちゃんもつられて笑った。「陽太くん、初めて笑ったな」
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