CHIHIRO
確かに、お金はもう貰ってる。
それでも僕は、お客の声なんか無視してトイレに駆け込んだ。
「ちょ、おい!!」
しっかり鍵を絞める。
僕はまだ服を脱いでなかったから、携帯も、貰ったお金もある。
携帯。
良かった…
トイレのドアを激しく叩く音と、お客の怒鳴り声だけが聞こえる。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……
僕は床に体育座りをして耳を塞いだ。
目をきつく瞑る。
ヴヴヴヴ…
その時、マナーモードの携帯が着信を知らせた。
震える手で確認すると、メールだった。
『仕事終わった!会える?』
千尋さんだった。
「…千尋さん……」
僕は込み上げてくる涙を必死にこらえながら、アドレス帳から千尋さんの名前を探す。
早く、早く…