CHIHIRO


これまでの様に、千尋さんは面会時間終了まで居てくれた。

今日1日何してたとか、会社でこんな事があったとか、深い内容は無いけどそれだけで楽しい。




そしてその夜。

お腹が急激に痛くなって、

…破水。


ベットの枕元にあるナースコールを押して、壊れるんじゃないかってくらい強く握った。



陣痛が始まったから、分娩室に運ばれた。

父さんと百合子さんと千尋さんとお父さんとお母さん、タツヤに連絡がいって千尋さんはすぐに駆けつけてくれた。


立ち合い出産。



痛くて痛くて、唸る事しかできなかった。
陣痛の間隔がだんだん短くなってきて、頭が見えたらしい。

千尋さんは不安を隠せてなくて。オロオロしながら僕の手を握っててくれた。


自分の力とは思えないくらいの力が、千尋さんの手を握ってる手に入って、千尋さんの手の骨をきしませた。



でもそんな事は気にならなくて、ただただ唸る。


「はい、力んでー。」


先生の声なんて耳に届かない。




< 303 / 313 >

この作品をシェア

pagetop