CHIHIRO
第三章

公園って、大概出入り口がふたつあるよね。

僕はいま目の前から、見たくないものに近寄られている。
じりじりと、気味の悪い笑みを浮かべて僕との距離を縮めている“そいつ”に、僕は動じた素振りを見せない。


やがてそいつは僕の目の前までやってきて、話しかけてきた。

「よぉ。」



間違えなく、彼。

…昨日の彼だった。
でも、昨日の服装とは打って変わってストリート系のだらしない感じはまるで無く、黒いスーツを着てYシャツのボタンを、目につくネックレスが見えるように開けてある。

「こんにちわ。」

昨日の今日で会いたくなかった。
今日も、と言ってくる客が少ないわけでは無いから。

「近所?」


僕は「はい」とだけしか言わなかった。
なぜあなたが此処に居るのか、とか服装の事とか知っても何の得もしないし、話が長くなって疲れるだけだ、と判断したから。



「そっか、ところで。聞きたい事があるんだけど。」



そいつは人気が少ない事を良い事に僕の髪の毛を掴んで顔を近づけた。




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