CHIHIRO
「いっ…!」
…“誘い”だと思った。
それでも、髪の毛を引っ張られれば誰だって痛い。
僕はそいつを睨みつけた。
離せよっ、の意味。
「人の財布から、勝手に金抜くって。どういう事?」
なんだ、その事か…。
だったら僕は何も悪くない。
約束してきたのは、そっちだもの。
「あの後、僕ちゃんと帰れましたよ?約束でしたよね?」
僕は間違っていないと思う。
ちゃんと帰れたし、ふらふらだったけど動けた。
そうすればさらに金を払う、と言ったのは、あなたでしょう?と僕は付け足した。
僕は今日中に帰りたい、とも伝えてあったし先に寝てしまって、電話でも起きなかったじゃない。
僕に非はないはず。
というか、こんな事でこんな風にされたのは初めて。
こいつはまだ僕の髪の毛をはなしてくれない。
「常識っつーもんを、教えてやるよ。」
殴られる…!
僕は必至に暴れて掴まれている髪の毛を振りほどいた。
ぶちぶちって音がして何本か抜けて痛かった。