CHIHIRO
ホテルの前で、愛用の古くなったバックを漁る。
手に収まりきる小さな瓶を取り出して、手にざらざらと拡げて口にいれる。
弱めの風邪薬。
それをペットボトルの水で一気に流し込んだ。
稼ぎ時のホテル街。
僕の前を通り過ぎた中年のサラリーマンとけばけばしいキャバ嬢が、目を見開いて僕を見た。
すげーだろ。
「家、帰りたくないなぁ…」
そんな心とは裏腹に僕の足は帰路についた。
980円の切符を買って、帰宅ラッシュの後の空いた電車に乗り込むと
すぐに出発した。
電車の揺れと一緒に、僕の頭も揺れる。
ぐらぐらする。
叩かれたり、抓られたりしたところが痛い。
僕の思考回路はだんだん曖昧になってきた。
今日は疲れたな…。
そんな事をいつも思いながらぼーっとしていると
あっという間に降りる駅に着いてしまった。