CHIHIRO


そんな事を考えて、“もしも”の時にどう対処するか考えながら
棚から歯ブラシを取ってレジに持っていった。


すると後ろから、ブラックの缶コーヒーもレジに出されて「先に車に戻って座ってな?」と優しい声が降ってきた。

振り返ると、彼。

にっこりしたまま車のキーを渡されて、僕はうろたえた。

「お金…」と言って汚れた500円を差し出した手は、そのまま突っ返されてしまい
彼はレジにゴールドカードを置いて「車で座ってな?あまり動かないほうがいいよ」と、これ以上にないくらい優しい声で言った。


僕はこの人の目に、どれほど惨めに映っているのだろう。

結局僕は言われた通りに車に戻って、大人しく座って彼を待った。


すぐに彼は戻ってきて、運転席に座るなり
僕の頭を撫でて「いい子だね」とほほ笑んだ。

こんな人間らしい扱い、された事がないから
どう反応していいか分からない。


彼が僕に何気なくくれる優しさに、いちいち戸惑う僕。




彼はまた黙って車を進めた。

また、僕から口を開く。




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