CHIHIRO
でも、今此処に来られても困る。
隣の部屋から聞こえるこの声を、なんて言えばいい?
説明なんてできない。
「いいよ、来なくて。もう大丈夫。でも、もし時間が空いてるなら…このまま電話して貰ってても、いい?」
『それは全然構わないけど…』
良かった…。
百合子さんが夕飯の支度を始める5時まで、あと2時間。
なんとか、大丈夫そうだ…
「ありがとう。あの、」
『ん?』
「ごめんなさい…」
『え?何が?』
千尋さんは、また焦ったような声だった。
この人はすごく分かりやすい人だな…
「優しくしてくれたのに、あんな態度とって。こんな時ばっかり…迷惑だよね?」
『いや、え…あ。』
「図々しくて、ごめんなさい…」
ごめんなさい…
その言葉で頭はいっぱいなのに、このままで、って思ってる自分が腹立たしい。
きっともう、千尋さんは僕の事嫌いだと思う。
だけどそんな考えを、千尋さんはすぐに消してくれた。