終業チャイム
途端に、携帯のバイブが鳴り出す。
由希子からの電話だ。
「ちょっと、今なにしてんの。」
「おはよ~、今起きたんだぁー」
電話口から聞こえる由希子の声は完全に寝起きで呆れた。
予想はできていたが。
「今から準備して行こうかー?」
「いや、もういいや。ゆっくり二度寝でもしてて。準備はまた今度にしよう。」
「そう?ごめんねぇ~」
寝ぼけ声の由希子を放って電話を切った。
これから谷田と授業、と知れば、きっと飛びついてきそうなので伏せておいた。
ここから先は、1対1だ。
邪魔はさせない。
扉が開く音がした。
それと一緒に、生徒の少ない校内にチャイムが鳴り響く。
もしも、“谷田があたしを気にしてる”というのが本当だったら、
“あたしがいつも眺めている”と知っていて、あの日に谷田もあの木を見ていたのだとしたら、
「やるぞ」
この体温に、心臓の鼓動に、素直に従うのも悪くない。
「…はい」
堕ちてみるのも、いいかもしれない。