終業チャイム
「おい、聞いてんのか。」
我に返った。
暑さで頭がどうにかなってんだ、そうに違いない。
「すみません…、もっかいお願いします…」
谷田はため息をつき、呆れた様子で話を続けた。
完全に勝負するつもりで乗ったこの補習だが、正直なんの作戦もない。
谷田の様子はいつもとまるで変わらないからだ。
いつもの砕けた口調で話す。
このふたりきりという状況にも関わらず、普段と違うところがさっぱり見つからない。
あたしが鈍感なだけ?
この場に由希子がいたら、鋭く察知できただろうか。
ここはあたしから仕掛けるべきか。
しかし、どうやって?
「公武合体っつーのはその名のとおり、公家と武家で子供作るんだ。
孝明天皇は妹の和宮を徳川家茂と結婚させんだよ。
それでできた子供は公家と武家の血をどっちも持ってっから、幕府権力の再構築をはかるってわけ。」
へぇ
昔の結婚て、なんてリアリズム。
「先生は、ご結婚されてるんですよね。」
「あ?」
無意識に口から出てた。
谷田がひどく怪訝な顔をして見ている。